契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
食事に行く前に連れていきたいところがあると言った橘社長の運転する車は、駅から北側の櫻坂付近で駐車場に入る。
ビルの地下駐車場へはスムーズに入庫し、見ていると契約車のスペースに駐車を済ませた。こんな場所に駐車場を契約しているなんて、どのくらいの金額を支払っているのだろうと単純に考えてしまう。
長年住んでいても、この辺りのエリアには桜見物でしか訪れたことがない。
駅から北側のノースエリアは、一般庶民が利用できるような店舗はないと幼い頃から教えられていたし、大富豪しか行かない場所だと思ってきた。
大人になってもそれはもちろん変わらなかったから、この辺りに買い物にきたり食事をしにきたりしたことは一度もない。
ドアを開けてもらい車から降り、未開の地に足を踏み入れる。
私のようなド庶民がうろうろしていい場所ではないだろうから、挙動不審気味にキョロキョロしてしまう。
そんな落ち着かない私の手を、橘社長が突然掴み取った。
「っ、あ、あの」
何事だろうと彼を見上げると、どこか不思議そうな目を向けられる。
「どうした」
「え、あ、手が……」
そう言ってみると、橘社長は繋いだ手を持ち上げてみせる。
「これ? なにか問題あるか?」
「え……あ、ない、です」
逆に疑問に思われたような反応で困惑する。
橘社長は繋いだ私の手を引き地下駐車場からエレベーターに乗り込んだ。