契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「着替えられました」
フィッティングルームを出ていくのはやっぱり緊張する。橘社長と初めて会った日、あの時着替えた感じとまったく同じだ。
私がこれを着てもいいのだろうか。
身の丈に合わないドレスをまとって、どんな顔をしていればいいのだろうか。
そんな思いが襲われる。
「すごくいい。似合っている、美しい」
だけど、橘社長は私のそんな想いを全部否定するように、褒め称え自信をつけてくれる。
それは魔法のように不思議な言葉で、胸を張ってもいいと思わせてくれた。
「問題、ないでしょうか……?」
「ああ、ドレスが喜んでいるよ」
そばで控えていたスタッフに、「これを着て行く」と伝え、「他に選んだものも一緒にお願いしたい」と、どこからともなく出していたカードを手渡す。
スタッフは「かしこまりました」とそれを受け取り、足早に立ち去って行った。
そんなタイミングで橘社長は「悪い」と断ってスマートフォンをスーツから取り出す。
応対の仕方から、どうやら仕事の連絡かもしれない。
「申し訳ない。至急対応しないといけない仕事の連絡が入った」
「そうですか。あの、では今日は」
「この後の時間は問題ない。一旦車に戻って対応してくる。車内にタブレットを置いてきたんだ」
先ほど去っていったスタッフが、預かっていったカードを橘社長に返却する。
「すぐに戻る。彼女を店内で待たせてほしい」
「かしこまりました」
私をひとり残し、橘社長はさっき入ってきた入り口を出ていく。
縁もゆかりもないお店にひとり残されて急に心細くなったところ、スタッフに「こちらへどうぞ」と店舗の奥へ案内された。