契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】


 心臓が嫌な音を立てて高鳴っている。

 恐る恐る店舗前にいたふたりに目を向けてみると、ふたりは向かい合ってなにか言い合いをしていた。その表情から、どこか険悪なムードがうかがえる。そのうち、女性のほうが怒ったようにその場を大股で立ち去っていった。


「シートベルトを」

「あ、はい」


 いつの間にか運転席には橘社長が乗り込んでいて、慌ててシートベルトを装着する。


「待たせて悪かった」

「いえ。あの……すみませんでした」


 橘社長は自分のシートベルトを締めながら「なぜ謝る?」と不思議そうに訊く。


「もしかしたら、お見苦しいものを見せたかと」


 さっきのあのタイミングなら、私が罵倒されているところを目撃した可能性は高い。


「謝るのは俺の方だ。ひとりで待たせるんじゃなかった」

「いえ、勝手に外に出てしまったのは私ですから」


 橘社長は店舗の中で待つよう私に配慮してくれたのだ。それを、落ち着かないという理由で動いたのは私なわけで、橘社長はなにも悪くない。


「だとしても、君が謝ることはなにもない。二度と、今日のような嫌な思いはさせない」


 やっぱり、聞かれちゃってたんだ……。

 申し訳ない気持ちが込み上げる中、鼓動がトクトク高鳴り始める。そんな言葉をかけてもらえるなんて思いもしなかった。

 見つめ合ったまま、どう答えたらいいのかわからず目を伏せる。


「じゃあ、今日の目的地に向かおう」


 橘社長はエンジンをかけハンドルを握った。

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