契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
こんな大きなプレートの真ん中に飾られているテリーヌなんて、これまでの人生でほぼ食べた記憶はない。友人の結婚式だとかに呼ばれた時に出たかでないか……そんな程度だ。
フォークとナイフは、外側から使うで正解だよね……?
こんなことになるなら、ちゃんとこうした席でのマナーを勉強しておくんだった。そんなことを思いながら、ナフキンを膝にかける。
向かいからふっと笑う気配を感じ、テーブルの上から視線を上げた。
目を向けると、橘社長が微笑を浮かべてこっちを見ている。
「もっとリラックスしていい。硬くならないでくれ」
どうやら緊張しているのがわかってしまったらしい。
「はい……」そう答えたものの、簡単に肩の力は抜けない。
「いただこう」
「はい。では……」
橘社長がナイフとフォークを手に取ったのに倣って同じように二本を手にする。
「まずは、俺に興味を持ってもらわないとな」
「えっ」
「いや……好きになってもらわないと、か」
突然切り出された話題に驚き、そして同時に鼓動が高鳴りだす。
私の反応を窺うように、橘社長の切れ長の目がじっとこっちを見つめていて、そのせいでますます心臓が落ち着きをなくした。
「私は、そんなつもりは……」
平静を装うとしても、どっどっと鼓動がうるさくて難しい。それでもなるべく顔に出ないように毅然とした態度に努めた。