契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】


「実は、出席していた姉から連絡がきて。忘れ物をしたから届けてほしいと。それで、あの場所に」


 あの時は、パーティーに参加していたわけではないと言うのは避けたほうがいいと思い、言わなかった。

 参加者でもないのに、会場で混乱を起こしたなんて迷惑で言い出せなかったのだ。

 でも、今となっては正直にあの時のことを話そうと思える。


「ただ届け物に行っただけなのに、騒ぎを起こしてしまい……あの時は本当に申し訳ありませんでした」


 改めて謝罪を口にすると、橘社長はなぜだかクスっと笑ってみせる。


「あの日も何度も謝っていたが、そんなに謝ることじゃない」

「いえ、謝ることです」

「まぁ……そういうところに惹かれたんだけどな。律儀で、相手に誠実。自分のことより相手を気遣える」

「そんなこと……」


 当たり前の行動を取っただけでこんな風に褒められると、居たたまれない気持ちになってくる。


「万人にできることじゃない。自然とそうしていたなら、やはりあなたは人として立派だということ」


 顔に熱が集まってくる。

 どこを見たらいいのかわからなくなって、小さく首を横に振りながらテリーヌを口に運ぶ。蟹の旨味が口いっぱいに溶けるように広がった。

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