契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「だから、もっと自信を持った方がいい。よく謝るというのは、癖になっていないか」
「あ……」
橘社長の言う通り、確かに「すみません」「ごめんなさい」はよく口にしている気がする。無意識レベルだから、癖になっているのだろう。
「なっているかも、しれません」
「だろうな」
ふっと笑う橘社長をちらりと見て、またプレートの上に視線を落とす。
まだ出会って数回しか会っていないのに、この方、すごい……。
「なんか、驚きました。観察力というか、人を見る力というか、やはり、そういう力に富んでいるんですね、お仕事柄なのかもしれませんが」
「へぇ、そんな風に言われるとは思わなかったな」
「そうですか?」
「ああ。まぁ確かに、人を見る目は自然と育ったかもしれないな。幼少期から、いろんな人間を見てきたから」
大企業を継承してきた家の御曹司として生まれて、きっと子どもの頃から特別な世界で生きてきたに違いない。
私のような、一般家庭で生まれ育った人間にはわからない苦労も多くしてきたのだろう。
「なにを考えている?」
「えっ……?」
「難しい顔をし始めたから」
そう言われて、ほんの少し眉間に皺が寄っていたことに気づいた。慌てて表情を整える。
「あ、すみません。私とは、生まれ育った環境も違うので、たくさん苦労もされているんだろうなって……いろいろ想像してたら」
「ほら、まただ」
「え?」
橘社長はくすっと笑ってじっと私の顔を見つめる。
「〝すみません〟は、いらないだろう?」
「あっ」
顔を見合わせふたりしてくすくすと笑い合う。また『すみません』と言ってしまいそうになり、自分に呆れながら言葉を飲み込んだ。