契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
私の胴にしっかり手を回して抱き、橘社長は落ち着いた声で私に声をかける。その距離もすぐ耳元に近くてどきりとした。
「すごい……私、馬に乗ったの初めてなんですけど……!」
「それは良かった」
手綱をわずかに引くと、馬がゆっくりと動き出す。周辺をぐるりと歩くと、馬はすぐに静かに立ち止まった。
馬を驚かさないように、橘社長は私を抱きかかえスムーズに地面に着地する。「ありがとう」とまた馬の白い体を撫でた。
「急に驚かせたな」
「いえ、ぜんぜん」
本当はかなり驚いたけれど、それよりも貴重な体験にドキドキしている。
「かっこいいなんて言われたから、ちょっと調子にのった」
「え……? あっ」
さっき趣味の話をしていて乗馬の話題が出た時、かっこいいと言ったことを思い出す。私のそんな発言を受けて〝調子にのって〟披露してくれたなんて、彼の意外な一面を見た気がした。
「それなら、予想以上でした。ご無沙汰とはいえ、やっぱり体が覚えているというやつですね、きっと」
橘社長は「そうかもしれないな」と同意して、くすっと笑う。こっちを見ながら笑っていて、どうしたのだろうと首を傾げてしまった。
「今朝迎えに行った時から比べて、よく話してくれるようになったなと思って。それが嬉しくて」
そんな風に言われて自覚する。
橘社長の言う通り、気がつけば意識して言葉を選んだりせずに話せている。
それを嬉しいなんて言われて恥ずかしくなったけれど、赤い顔を隠さず笑みを浮かべてみせた。