契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】


「ひと通り見させていただきました。ありがとうございます」

「なにか不自由なことはないか」

「不自由なんて、そんな」

「気に入らないことがあれば、別の場所を用意しようと思うが」

「そっ、そんなそんな!」


 思わず蓮斗さんの声を遮る。

 さらっととんでもないことを言うものだ。


「不自由も、気に入らないところもありません。むしろ、こんなところに住むなんて私にとっては現実味がないというか……持て余してしまうと思っていたくらいです」


 こうしていても、未だにここに移り住むことが信じられない。

 実際、ここで生活を始めたらどんな毎日を送るのだろう。想像もつかない。


「問題がなさそうなら、すぐに住み始められるように手配を進める。整い次第、お互いここに引っ越してこよう」

「わかりました」

「澪花」


 突然、そっと手を取られる。何事かと蓮斗さんと見上げると、彼はじっと私の目を見つめた。目の奥まで見つめるような、真剣な眼差しに呼吸を忘れそうになる。


「さっき病院で、約束は果たしますと、言っていたな」

「え……? はい」


 はっきりと返事をすると、蓮斗さんはふっと口元にわずかに笑みをこぼし、目を伏せる。


「契約結婚を申し出たことは、間違いない。だから、君がそう言うのも間違いではない。だけど……」


 蓮斗さんはそこで言葉を止める。その続きをじっと待ってみたものの、彼はまたふっと笑うだけだった。


「ごめん。なんでもない」


 それだけを言い、何事もなかったように手を離した。

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