契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「完璧な夫と認めてもらえるには、時間がかかりそうです」
つい本音がこぼれてしまう。
彼女が完全に心を許してくれていないことは、一緒にいてそこにある空気感でなんとなく感じ取っている。
どうしたらふたりの間にある壁を取り除けるのか、その答えは未だ見つかっていない。
彼女にとって俺は、〝契約結婚の相手〟というだけだろう。
約束は果たすと、決意を固めたように言った澪花の真面目な表情が忘れられない。
そこには、彼女の特別な感情など動いているはずもなく、少し寂しさを感じた。もちろん、そんな感情口にはできなかったけれど。
「やっぱり、難しいところありますか? 澪花」
萌花さんはどこか心配そうに俺の様子を窺う。
自分自身の至らない点に弱音を吐いたつもりだったけれど、なにか誤解をさせてしまったかと内心焦る。
しかし、萌花さんは続けて口を開いた。
「ご存知だとは思いますけど……あの子、過去に男性とのお付き合いでひどく傷付いたことがありまして」
切り出された話に、先日の出来事が蘇る。
あの時、澪花の背中がやたら小さく見えた。
その前には、公共の場で声を荒げ、下品に笑う男。
嫌悪感を抱きながら、引き離すつもりで迎えにいった澪花の顔色は最悪で、怯えているような様子さえうかがえた。
以前に付き合いがあった男だとはその時話してくれたが、なにがあったかまでは聞いていない。その男との過去が原因で、男を〝苦手〟と言ったのだろうとは察したが……。