蝶と柊 ~冷たくて甘い君~

繭は出会う




小鳥のさえずりを遠くに聴いて、徐々に意識が戻ってくるのを感じた。



深呼吸をする。



開けたまま眠ってしまっていたらしい窓から、心地良く、やさしく、でもどこか力強い。そんな風が吹いている。



匂いだけで夜だと悟るのは、そう難しくはなかった。



ああ、まだ夜か。



どれくらい眠っていたのだろうか。



あまり記憶が無い。



…うまく、思い出せない。



ああ、これはきっと。



ずいぶんと久しぶりにこの症状が出てしまった。



一部の記憶の欠落_とでも呼べば良いのだろうか。



「仕方ないか……はぁ」



溜め息をついた後、ベッドから起き上がり、重い足取りでキッチンへと向かう。



コップに水を入れ、引き出しから取り出したカプセル錠を、意を決して飲み込む。



「……っ」



頭にズキンと走り、鈍く続く痛み。



私自身、この身体との付き合いは長くてうまくやっているつもりなのだが。



未だにこの痛みには慣れることはできないままだ。



久しぶりのこの感覚に、ふらふらとよろめいてキッチンに座り込んでしまう。



身体が熱い。息が上がる。胸の鼓動が速い。



こんな時、傍に誰かいてくれたなら…なんて考えてしまう。



でも、帰る場所なんてない私は、生きていかなくちゃいけないんだ。たった1人で。



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