ケーキだけかと思ったら…私まで中条くんに溺愛されました
 桜さんとは同じクラスだったけれど、可愛い女の子だなって思う程度だった。それ以上でもそれ以下でもなかった。

 桜さんと初めて関わったのは、クッキーを家に忘れて、公園の前でうずくまっていた時。

 あの時は本当に眠たくて、倒れそうになっていた。でも雪が積もる寒い場所で眠ったらダメだと思いながら、必死に眠気と戦っていた。

 そんな時「中条くん、大丈夫? 具合悪いの?」と、桜さんは話しかけてくれた。しかも手作りのケーキも持っていて、お願いしたらくれた。

 桜さんの手作りケーキを食べた時に、初めて甘いという味を知った。すごく美味しくて、衝撃(しょうげき)的だった。

――世の中には、こんなに美味しいものがあったんだ!って。

 僕は、生まれた時から甘い味を感じられなかった。お菓子だけではない。例えば、炊いたお米の甘さとかも知らない。

 誰かの誕生日パーティーに呼ばれて食べたケーキも、暑い時に食べたアイスも……。周りが「甘くて美味しい」って盛り上がっているのに、自分だけが味を感じなくて、さみしい時もあった。

 それだけでも嫌なのに、甘いお菓子を定期的に食べないと眠くなって倒れる厄介(やっかい)な病気も(かさ)なり……。

「このクッキー、いつか味を感じてみたいな」って、ひとりで食べながら呟いたりもしていた。

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