優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
プロローグ
中野つぐみは私立の高校に新任教諭として赴任し、緊張と期待に胸を膨らませていた頃。とにかく毎日が新鮮で、新しい事を吸収しながら、楽しいだけではない日々を過ごしていた。
背はそこまで低め、どちらかというと童顔な顔立ちという見た目のせいか、親近感を持つ生徒が多くおり、生徒たちからよく声をかけられた。
ただ教師というよりも生徒寄りの雰囲気すら感じさせてしまう自分が嫌で、髪は一つにまとめ、なるべくパリッとしたシャツにカーディガン、なるべくパンツスタイルを選ぶようにしていた。
そんな中、つぐみは図書館で一人の男子生徒と出会う。
閉館間際の図書館。返却を忘れていた本を持って駆け込んだ日のこと。
ほとんどの生徒が帰り始めている中、ギリギリまで椅子に座って本を読んでいる生徒がいたのだ。ブレザーの胸元についている赤色の学年章は、新任では受け持つことができない三年生だった。
まるで学生時代の私みたいーー国語の教師だったつぐみは、図書館に居座って本を読み漁っていた頃を思い出し懐かしくなる。
だからだろうか。集中して本を読む姿に好感を抱いた。
何となく男子生徒の手元に視線を投げ、ちらっと本の表紙を確認してしまう。するとそれが自分も読んだことのあるものだったため、急に全く話したことのない生徒に対して更に親近感が湧いてしまった。
どうしよう……いきなり声をかけたらおかしいかなーー少し躊躇しながらも、やはり気になってしまう。
少しずつ近付き、静かに背後に立つと、意を決して口を開く。
「あのっ……その本、すごくいいよね」
声をかけられた男子生徒は驚いたように体をビクッと震わせると、顔を上げてつぐみを見た。
「あっ、ご、ごめんね! 私もその本を読んだことがあったから気になっちゃって……」
「あぁ、そうだったんですね。いきなり声をかけたからびっくりしました」
男子生徒は本にしおりを挟んで閉じると、爽やかな笑顔をつぐみに向けた。
隣に並べばどちらが年上かわからないくらい、柔らかく大人びた雰囲気の彼は、時計を見てハッとする。
「もうこんな時間! 集中しすぎちゃったみたいだ」
「そうそう! 籠原くんはもう少し周りを見なさいね! いっつもギリギリまでそうやって本を読んでいるんだから。中野先生、声かけてくれてありがとう。もう少ししたら行こうと思っていたのー」
背後から図書館司書の山村の声がし、思わずドキッとしてしまう。
「あっ、いえ、そんな……」
ただ彼が読んでいた本が気になっただけとは言えず、心臓が早鐘のように打ち付ける。
すると籠原と呼ばれた男子生徒が、読んでいた本をカバンにしまうとスッと立ち上がった。
「先生、職員室まで戻るんですか?」
「うん、まだやることがあるから」
「じゃあ途中まで一緒に行きませんか? 少しだけ読書談議でもしましょう」
その言葉につぐみの表情がパッと明るくなる。それから籠原と共に図書館を後にした。
背はそこまで低め、どちらかというと童顔な顔立ちという見た目のせいか、親近感を持つ生徒が多くおり、生徒たちからよく声をかけられた。
ただ教師というよりも生徒寄りの雰囲気すら感じさせてしまう自分が嫌で、髪は一つにまとめ、なるべくパリッとしたシャツにカーディガン、なるべくパンツスタイルを選ぶようにしていた。
そんな中、つぐみは図書館で一人の男子生徒と出会う。
閉館間際の図書館。返却を忘れていた本を持って駆け込んだ日のこと。
ほとんどの生徒が帰り始めている中、ギリギリまで椅子に座って本を読んでいる生徒がいたのだ。ブレザーの胸元についている赤色の学年章は、新任では受け持つことができない三年生だった。
まるで学生時代の私みたいーー国語の教師だったつぐみは、図書館に居座って本を読み漁っていた頃を思い出し懐かしくなる。
だからだろうか。集中して本を読む姿に好感を抱いた。
何となく男子生徒の手元に視線を投げ、ちらっと本の表紙を確認してしまう。するとそれが自分も読んだことのあるものだったため、急に全く話したことのない生徒に対して更に親近感が湧いてしまった。
どうしよう……いきなり声をかけたらおかしいかなーー少し躊躇しながらも、やはり気になってしまう。
少しずつ近付き、静かに背後に立つと、意を決して口を開く。
「あのっ……その本、すごくいいよね」
声をかけられた男子生徒は驚いたように体をビクッと震わせると、顔を上げてつぐみを見た。
「あっ、ご、ごめんね! 私もその本を読んだことがあったから気になっちゃって……」
「あぁ、そうだったんですね。いきなり声をかけたからびっくりしました」
男子生徒は本にしおりを挟んで閉じると、爽やかな笑顔をつぐみに向けた。
隣に並べばどちらが年上かわからないくらい、柔らかく大人びた雰囲気の彼は、時計を見てハッとする。
「もうこんな時間! 集中しすぎちゃったみたいだ」
「そうそう! 籠原くんはもう少し周りを見なさいね! いっつもギリギリまでそうやって本を読んでいるんだから。中野先生、声かけてくれてありがとう。もう少ししたら行こうと思っていたのー」
背後から図書館司書の山村の声がし、思わずドキッとしてしまう。
「あっ、いえ、そんな……」
ただ彼が読んでいた本が気になっただけとは言えず、心臓が早鐘のように打ち付ける。
すると籠原と呼ばれた男子生徒が、読んでいた本をカバンにしまうとスッと立ち上がった。
「先生、職員室まで戻るんですか?」
「うん、まだやることがあるから」
「じゃあ途中まで一緒に行きませんか? 少しだけ読書談議でもしましょう」
その言葉につぐみの表情がパッと明るくなる。それから籠原と共に図書館を後にした。
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