優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
「……彼氏と別れるために待ってたの」

 私はずるい女だーーあの日彼を傷付けた張本人なのに、今は彼の優しさを求めている。

 つぐみの言葉に、翼久は驚いたように目を見開いた。

「だけどすっぽかされたから、さっき彼の家まで行って別れてきたの。本当はずっと前にこうするべきだったんだけどね……でもやっと肩の荷が降りた感じ」
「肩の荷って、どんな男だったの?」

 まさか相手のことを聞かれるとは思わず、昌也のことを思い出してみる。良いこともあったはずなのに、思い出されるのは嫌なことばかりだった。

 こんなにも気持ちが冷めていたんだと改めて実感する。

「そうねぇ……ゲームばっかりで、私のことなんて見向きもしない。何も出来ないくせに一人暮らしして……あぁ、よく考えたら、私に家事をさせるために合鍵を渡したのかも」
「あはは。なるほど。なかなか鋭い読みかもね。でもさっき別れたばかりなら、結構へこんでる?」
「むしろスッキリしてる。ただ生活の一部が消えてなくなってしまったような喪失感はあるかもしれないけど……」

 その時、二人の元にカクテルが届いた。二人はグラスを合わせると、それぞれ口に含んだ。

「それ、俺で埋めることは出来ない?」

 それはどこかで期待していた言葉だった。なのにいざ言われてしまうと、彼に縋ることに不安を覚えて俯いた。

「籠原くん、付き合ってる人とかいないの?」
「いないよ。不完全燃焼な失恋をしてから、勉強一本で頑張ってきたからね」
「……ごめんなさい……」
「別に謝ることじゃーー」
「そうじゃないの。私……あの時嘘をついたの。本当は付き合ってる人なんていなかったのに……いるって嘘をついた……」

 彼に付き合っている人がいないと知って安心したのに、このまま嘘をつき続けることが心苦しくなる。それなら何かが始まる前に打ち明けてしまう方が苦しまずにすむ。

 私、保身ばかりでずるいーーしかしその時、思いがけない言葉が聞こえてきたのだ。

「うん、そうかなって思ってたよ」

 つぐみは顔を上げて、驚いたように翼久の顔を見つめた。

「……どういうこと?」
「だって先生、そういう話を一切しなかったよね。休日も友達との約束か、読む予定の本のことばかり。だから、そんな嘘をつかせたのは俺なのかなって思ったんだ。だってあの時って、どうやったって告白の流れなのに遮られたし。告白をさせないようにしたとしか思えなかった」

 翼久の瞳に捕らわれ、身動きが取れなくなる。二人の視線が絡み合い、彼から目が離せなかった。
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