優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
「あの……私のことを、恨んでる? もし籠原くんの大学生活を暗くしちゃったのなら……」
「暗い? 全然そんなことないよ。サークルだって入ってたし、仲良しの仲間もいるし。そこまで心配させたのならごめん。脇目も振らずに、がむしゃらに頑張ったってだけだから」

 翼久は肘をついてつぐみの顔を覗き込むと、にこりと微笑んだ。

「で、先生はどうして嘘ついたの?」
「それは……だって教師と生徒だし……」
「卒業したらただの男女になるよ」
「でもそれでも前途洋々な大学生だし、年上の私なんかよりもずっとお似合いの人との出会いがたくさんあるはずでしょ? そう思ったら籠原くんは私なんか……」

 そうか……私は自分が傷付くのが怖かったんだーーようやくあの時の自分の気持ちを理解することが出来た。

「それって、あの時、少しでも俺に対して気持ちがあったってこと?」

 ここでそれを認めてしまったらどうなるんだろう。

 その時、テーブルの上に置かれたつぐみの握り拳に彼の手がそっと重なり、それから優しく包み込まれる。

「そんなに意地張らないでよ。それともやっぱり気持ちはなかった?」
「そんなわけないじゃない……! でも私は……傷付くのが怖い弱虫なの。自分の保身ばかり考えちゃう……」
「だから俺に対しても予防線を張ったんだね」

 本音を言えばこのまま流されてもいいと思うのに、やはりどこかでストッパーがかかるのだ。彼に手を出したらダメ。だって彼はーー。

 そう思った時、つぐみの指の付け根を彼の指か何度も撫で始める。その度にくすぐったいような、体の奥の方がキュンと熱くなっていく。

「だ、ダメ……それやめて……」

 こんな顔、恥ずかしくて見せられないーー思わず顔を背けたが、それを見ていた彼がクスクスと笑う。

「あぁ、何だ、そういうことか。先生は素直になれない意地っ張りで、しかも真面目なところは相変わらずなんだね」

 すると彼はつぐみの耳元で、
「もっと俺に頼って甘えて。本当のつぐみさんを見せてよ」
と囁いた。
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