優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
 名前を呼ばれた途端に体の力が抜け、口からは甘い吐息が漏れる。呼び方が変わっただけで、こんなにも罪悪感が減るなんて思わなかった。

「でも私……酷いことしたのに……」
「何も酷くなんかないよ。言ったよね、今となっては感謝してるって」

 彼はつぐみの手を開かせると、指が絡み合うように握り合った。触れているのは手だけのはずなのに、まるで体全体を包まれているかのような高揚感を感じる。

「ねぇつぐみさんも明日から三連休?」
「うん……そうだけど……」
「じゃあさ、俺の部屋においでよ」
「それは……三日間ってこと?」
「そう。めいっぱいリラックスさせてあげるよ」

 彼は昔と同じ笑顔を浮かべる。

「ただし、これだけは伝えておく。俺は昔からずっとつぐみさんが好きだったし、今も気持ちは変わらない。それがどういうことなのか、覚悟して返事して」

 彼が突然大人の男になったような気がして、胸が大きく高鳴った。

 好きな人と三日間も同じ部屋で一緒に過ごして、何も起こらないはずがない。それはきっと、そういうことを覚悟するということだろう。

「だからつぐみさんを大好きで止まない俺をもっと利用して。つぐみさんはどうしたい? それともどうして欲しい?」

 優しい言葉とは裏腹に、彼の瞳はギラギラと燃えたぎっているように見える。

 だけど不思議とそれが嫌ではなかった。むしろこの瞳に捕えられたいとすら思う。

 つぐみは唇をきゅっと結ぶ。瞳を閉じてしばらく考え込み、意を決した様子で口を開いた。

「籠原くんの部屋に行ってもいい……?」

 翼久は満面の笑みを浮かべると、つぐみの手の甲に口づける。

「もちろん。このカクテルを飲んだら行こうか」

 これから何が起こり、何が始まるのだろうーーつぐみは胸をギュッと掴み、期待と不安が入り混じる心を抑え込んだ。
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