優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
* * * *

 翼久の手はタクシーに乗っている間も、つぐみを離そうとはしなかった。こんなこと、生きてきて一度だって経験したことはない。

 タクシーを降りた先にあったマンションに入って行くと、翼久はオートロックを開錠する。その奥にあるエレベーターを呼び出している間、つぐみは辺りを見回した。

 グレーが几帳面の落ち着いた雰囲気の五階建てで、築浅がなのがパッと見てわかるくらい、どこもかしこもきれいだった。

「いつからここに住んでるの?」
「半年くらい前かな。仕事もだいぶ覚えてきたし、そろそろ自立しようって思って」
「家事も自分でやってるの?」
「ある程度はね。料理は苦手だから買っちゃうことが多いけど」

 エレベーターが到着した途端、心臓の鼓動が早くなる。数時間前に彼氏に別れを告げたばかりなのに、もう別の男性ーーしかも元生徒の部屋に行こうとしているなんて……。

 ここまで来て、未だに葛藤が芽生えてしまう。そんな自分の優柔不断さが嫌だった。

 つぐみはどこか気まずくて、回数ボタンのパネルの前に立ち、翼久に背を向けてしまう。

 その様子に気付いた翼久が、背後からつぐみを抱きしめた。

「また不安になった?」
「……少しだけ」

 そう呟くと、翼久の手が白のフレアスカートをたくし上げ、太腿を撫で始める。驚いたつぐみは、ビクッと体を震わせた。

「ちょっ、籠原くん……!」

 翼久は振り返ろうとしたつぐみの顎を引き寄せると、唇を重ねて激しいキスを繰り返す。それに加えて彼の手が太腿に沿わせた指を徐々に上の方へなぞっていくので、思わず腰が抜けそうになる。

「ちゃんと名前で呼ばないとダメだよ」
「だからって……」
「つぐみさんは考え過ぎなんだ」
「考え過ぎ……?」
「そう。もっと自分の気持ちに素直になっていいんだよ。これから三日間は何も考えられなくしてあげるから、俺に身を委ねて、俺のことだけ考えていればいいんだ」
「そんなこと……出来る?」

 エレベーターのドアが開き、翼久はつぐみの手を引いて右方向に廊下を歩いてすぐのところにあるドアの前で止まる。

 翼久は鍵を差し込み扉を開くと、つぐみに先に中へ入るよう促す。言われた通り先に部屋に入った瞬間、背後から抱きしめられた。
< 18 / 33 >

この作品をシェア

pagetop