優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
「つぐみさん、俺たち付き合ってるってことでいいんだよね?」
「……翼久くんはそれでいいの?」
「もちろん。つぐみさんは?」
「……それでいい」

 照れたように顔を背けたつぐみを、翼久は愛おしそうに抱きしめるとキスをした。

 今日一日で、もう三回もキスしてるーーというか、キスなんて久しぶり過ぎて感覚を忘れていた。

 しかしもっと深いキスを期待したところで、翼久の唇が離れてしまう。不満気に唇を尖らせたつぐみに対し、翼久は満面の笑顔を浮かべていた。

「言ったよね。今日はめいっぱいリラックスさせてあげるって。それに自分の気持ちにもっと素直になって、何も考えられなくなって欲しい」
「私は……どうすればいいの?」
「つぐみさんがしたいことを全部教えてくれればいい」

 つぐみは眉間に皺を寄せると、翼久の顔を両手で挟んだ。

「私、さっき別れてきたばかりなのよ。それなのにいきなり翼久くんとしたいことなんて口にしたら、すごく冷たい人間だと思わない?」
「思わないよ。だってそれは、元彼よりも俺のことを好きだっていう証明になる」
「で、でも……」

 つぐみは口を閉ざす。このままあれこれ並べてみても、翼久は笑顔で受け流していくだろう。

 それってよく考えたら不毛な時間よねーーたった数時間前といっても、別れたことに変わりはないし、何より翼久くんがそれでいいと言ってくれているんだからーー。

 ふと自分の手に挟まれた状態の翼久を見て、胸がキュンと熱くなった。

「翼久くんとキスがしたい……」

 心の中で言ったつもりが、しっかりと口から漏れてしまう。その言葉を聞き逃さなかった翼久は、つぐみの頭を引き寄せ貪るようなキスを繰り返した。

 先ほどまでの二回のキスは突然で、キスの余韻に浸る時間はなかったが、今はようやく少しだけ気持ちが交わり始めた。

 翼久の舌がつぐみの唇を分け入って侵入してくると、二人の舌はお互いを求め会うかのようにねっとりと絡まり合っていく。

 キスだけで体までおかしくなりそうーーつぐみは翼久の頭に腕を回し、自らも彼を求め始める。

 こんな感覚、ずっと忘れていたーー自分だけが好きでいるような、満たされない感情が当たり前のようになっていたけど、本当は逆を望んでいた。

「つぐみさん、好きだよ……ずっとあなたが欲しかった」
「……本当?」
「今がこんなに満たされているのに、どうして嘘なんかつくのさ」

 嘘でもいいーー自分のことを欲しいと言ってくれた言葉に、つぐみは全てを委ねたくなった。

 明日がどうなるかわからない。それでも今だけは全てを曝け出して満たされたい。
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