優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
 つぐみの歩幅に合わせてくれているのか、二人は隣り合って歩いていく。生徒である彼の方が二十センチくらい背が高く、不思議な気分になる。

「先生はラストまで読みましたか?」
「うん、読んだよ。というかね、三回くらい読み返しちゃった」
「へぇ。先生がハマるくらいなら、相当面白いんだろうな」
「あの……籠原くんはまだ一回目?」
「はい、この作者が書く物語が好きだから、今一冊ずつ読んでるんです」

 二人が読んでいたのはミステリー小説だったが、主人公の生い立ちや犯人との接点、心理描写が丁寧に書かれており、涙なしでは読めなかった。

 自分の周りにこの作品を読んだ人がいないし、薦めたくても好みが分かれる気がしたので、それならば一人で余韻に浸ることを選んだ。それなのにまさか学校の図書館で同じ本を読んでいる生徒がいるとは思わず、嬉しくなってしまった。

「先生は読書好きなんですか?」
「うん、すごく好き。子供の時から本の虫でね、今は仕事も忙しいし読む時間が減っちゃったけど、なるべく月に五冊くらいは読むようにしてるよ。籠原くんは?」
「俺も読書好きです。ただ受験生になったし、そういうわけにもいかないんですけどね」
「籠原くんは好きなジャンルとかある?」
「ダントツミステリーです」
「あっ、わかる!」

 そんなことを話している間に、あっという間に昇降口に着いてしまう。もっといろいろ話してみたいなーーそう思ったのはつぐみだけではなかったようだ。

「俺、三年二組の籠原翼久(たすく)です。良かったらまた本の話がしたいです。ほら、先生のオススメの本とか」
「じゃあ私にも教えてくれる? 新規開拓してみたいから」
「いいですよ。俺、結構雑食なので。じゃあ先生、また明日」
「はい、さようなら」

 手を振って歩き出した背中を、同じように手を振って見送る。なんていい子なのかしらーーというか、同じ好みの子と出会えたことが何より嬉しかった。

 帰ったらあの本を読み返してみようかな……そんなことを思いながら、つぐみは久しぶりに清々しい気分のまま職員室に向かって歩き始めた。
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