優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
* * * *
それからというもの、つぐみと翼久は互いに本の貸し借りをするようになった。大体が休み時間に翼久が職員室を訪れ、わずかな時間でも読書談議を楽しんだ。
最初は二人の関係を怪しんだ女子生徒もいたが、二人が読み合う本を見るなり、二人が病的な読書好きだと理解してそれ以上は何も口出しはしなかった。
そんな関係が続いていた夏休み。つぐみが補習のための資料を探しに図書館に行った日、二人は久しぶりに職員室以外の場所で顔を合わせた。
初めて会った日と同じ場所で本を読んでいた翼久だったが、この日はすぐに顔を上げ、つぐみを見つけた途端に満面の笑みを浮かべたのだ。
「先生、久しぶり」
「久しぶりだけど、どうして学校にいるの? 夏期講習は?」
「うーん、たまに休まないと疲れちゃうから」
「ん? ということは、もしかしてサボり?」
「半分正解。でも半分は不正解」
そう言うと、翼久はカバンの中から本を一冊取り出し、つぐみの前に差し出した。
「夏休みは長いからさ、返そうと思って」
「そんな……夏休み明けでも良かったのに」
机に置かれた本を手に取り、こんなことのために夏期講習を休ませたことを心苦しくて、眉間に皺を寄せる。
その様子を見ていた翼久は思わず吹き出した。
「うん、そう言われると思ってました。でも先生に会いたかったんだ。読書談議が今の俺のストレス解消だから」
受験生の気持ちは気持ちはわからなくはないーー確かにどこかに逃げ場がないと、勉強だけでは息が詰まってしまうだろう。
ただつぐみは、『先生に会いたかった』という言葉に動揺していた。本音を言えば、彼がいない学校はどこか寂しく物足りないと感じていたのだ。
ひょっこり会いにきてくれないかなーーふとそんなことを思ってしまう日もあった。
「……でも私、まさか今日会うとは思わなかったから、何も持ってないの」
「大丈夫です。先生に会えただけでラッキーだから」
「そうなの? 学校にだったらいつでもいるよ」
「そうなんだけど……職員室以外で会えたらなって思っていたから、今日は最高にツイてる」
確かに職員室はいつも賑やかで、落ち着いて話すことが出来なかった。つぐみは彼の前に座るとポケットからメモとボールペンを取り出し、最近気に入った本の名前を書いた。
「先生? それ何ですか?」
「ん? ほら、今は実物がないから、最近読んで面白かった本を書いてみたの。はい、どうぞ」
メモを受け取った翼久は、それが相当嬉しかったのか、柔らかな笑みを浮かべる。
「ねぇ先生」
「なぁに?」
「このメモ、もっと欲しいです」
「メモ?」
「夏休み中、何か読んだら教えてくれませんか? 例えば俺の下駄箱に入れるとか。そうしたら学校に来るのが楽しみになるし、夏期講習も頑張れる気がするんです」
「いいけど……こんなことで頑張れるの?」
「受験後の楽しみが増えるじゃないですか」
受験や夏期講習というワードを出されてしまっては、つぐみに断る術はなかった。
「受験勉強、頑張ってね」
「ありがとう、先生」
彼の素直な笑顔を見るだけで、つぐみの胸はホッと温かくなる。不思議と安心出来て、満たされるような感覚だった。
それからというもの、つぐみと翼久は互いに本の貸し借りをするようになった。大体が休み時間に翼久が職員室を訪れ、わずかな時間でも読書談議を楽しんだ。
最初は二人の関係を怪しんだ女子生徒もいたが、二人が読み合う本を見るなり、二人が病的な読書好きだと理解してそれ以上は何も口出しはしなかった。
そんな関係が続いていた夏休み。つぐみが補習のための資料を探しに図書館に行った日、二人は久しぶりに職員室以外の場所で顔を合わせた。
初めて会った日と同じ場所で本を読んでいた翼久だったが、この日はすぐに顔を上げ、つぐみを見つけた途端に満面の笑みを浮かべたのだ。
「先生、久しぶり」
「久しぶりだけど、どうして学校にいるの? 夏期講習は?」
「うーん、たまに休まないと疲れちゃうから」
「ん? ということは、もしかしてサボり?」
「半分正解。でも半分は不正解」
そう言うと、翼久はカバンの中から本を一冊取り出し、つぐみの前に差し出した。
「夏休みは長いからさ、返そうと思って」
「そんな……夏休み明けでも良かったのに」
机に置かれた本を手に取り、こんなことのために夏期講習を休ませたことを心苦しくて、眉間に皺を寄せる。
その様子を見ていた翼久は思わず吹き出した。
「うん、そう言われると思ってました。でも先生に会いたかったんだ。読書談議が今の俺のストレス解消だから」
受験生の気持ちは気持ちはわからなくはないーー確かにどこかに逃げ場がないと、勉強だけでは息が詰まってしまうだろう。
ただつぐみは、『先生に会いたかった』という言葉に動揺していた。本音を言えば、彼がいない学校はどこか寂しく物足りないと感じていたのだ。
ひょっこり会いにきてくれないかなーーふとそんなことを思ってしまう日もあった。
「……でも私、まさか今日会うとは思わなかったから、何も持ってないの」
「大丈夫です。先生に会えただけでラッキーだから」
「そうなの? 学校にだったらいつでもいるよ」
「そうなんだけど……職員室以外で会えたらなって思っていたから、今日は最高にツイてる」
確かに職員室はいつも賑やかで、落ち着いて話すことが出来なかった。つぐみは彼の前に座るとポケットからメモとボールペンを取り出し、最近気に入った本の名前を書いた。
「先生? それ何ですか?」
「ん? ほら、今は実物がないから、最近読んで面白かった本を書いてみたの。はい、どうぞ」
メモを受け取った翼久は、それが相当嬉しかったのか、柔らかな笑みを浮かべる。
「ねぇ先生」
「なぁに?」
「このメモ、もっと欲しいです」
「メモ?」
「夏休み中、何か読んだら教えてくれませんか? 例えば俺の下駄箱に入れるとか。そうしたら学校に来るのが楽しみになるし、夏期講習も頑張れる気がするんです」
「いいけど……こんなことで頑張れるの?」
「受験後の楽しみが増えるじゃないですか」
受験や夏期講習というワードを出されてしまっては、つぐみに断る術はなかった。
「受験勉強、頑張ってね」
「ありがとう、先生」
彼の素直な笑顔を見るだけで、つぐみの胸はホッと温かくなる。不思議と安心出来て、満たされるような感覚だった。