優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
* * * *

 冬休みが明けてから、受験生である翼久は学校に来なくなり、二人の間にも距離が生まれる。

 つぐみは翼久の担任教諭から情報を教えてもらいながら、彼の合格を心から祈っていた。

 そして待ちに待った合格を知らせを受けた時、つぐみはまるで自分のことのように喜んだ。

 卒業式が間近になり、翼久が久しぶりに登校をした姿を遠くから見ていたつぐみは、少しだけ寂しさを覚える。

 それは彼がこの学校からいなくなってしまうことや、彼は卒業する生徒で、自分は見送る側であること。教師になって大変だった一年目のつぐみを、翼久と過ごした時間が癒してくれていたことにようやく気付いた。

 だからこそ、この先の二人の方向性が違うこともわかる。翼久には希望溢れる未来が待っていて、つぐみはこの学校で教師として知識を深めていく。それはどこか似ているようで、相反するものでもあった。

 彼の未来がキラキラと輝くものであるといいなーーそんなことを思いながら、つぐみは真っ直ぐ前を見据えて歩き出す。

 私だって五年前はキラキラしていたはずなのに。一体どこに置いてきちゃったのかしら……小さなため息をつきながら、書庫にある本を借りるために司書の山村がいる受付に向かった。

「あら、中野先生」
「こんにちは。今日は書庫にある本が借りたくて、鍵を借りたいんですが……」
「あぁ、はいはい。ちょっと待ってくださいね!」
「お願いします」

 山村は引き出しを開けると、中から書庫の鍵を取り出してつぐみの手に載せる。ひんやりと重い感触に、体がゾクっと震えた。

「そういえば、籠原くんには会いましたか? 確か今日から登校でしたよね」
「いえ、まだ……さっきクラスメイトたちに囲まれていたから、すぐには来ないかもしれませんね」

 山村はつぐみに優しく笑いかける。

「読書仲間がいなくなっちゃうと、寂しくなるでしょ? 中野先生は特に一年目だし」
「そうですね……」
「何? 俺の話?」

 すると突然翼久の声がし、つぐみはパッと振り返った。
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