優しい鳥籠〜元生徒の検察官は再会した教師を独占したい〜
「おぉ、籠原くん。合格おめでとう」
「まぁなんとかね。先生たちから何かお祝いとかないんですか?」
「なぁに図々しいこと言ってるのさ。『いつもサボらせてくれてありがとう』じゃないの?」

 二人の会話を聞いているだけで、冬休み前に戻ったような気持ちになり、つぐみは思わず吹き出した。

 ずっとこの時間が続くような気がしてしまうが、終わりが来ると思うとやはり切なくなる。

「籠原くん、合格おめでとう! 頑張ったね。でもこんなやり取りも最後になっちゃうなんて、なんか三月ってやっぱり寂しいですね……」

 しんみりとした沈黙が訪れたが、それを翼久がすぐに打ち破った。

「あれっ、先生が持ってる鍵ってもしかして……」
「あぁ、これ、書庫の鍵を借りたところ」
「うわっ、いいなぁ。俺、一度でいいから入ってみたかったんだよね」

 書庫は生徒は立ち入り禁止になっていた。翼久は瞳をキラキラさせ、山村に懇願するように頭を下げる。

「一生のお願い! ほら、合格祝いだと思ってさ!」

 はっきりと言葉にはしないものの、どうやら中に入れて欲しいと言っているようだった。

 山村は眉間に皺を寄せ、しばらく考え込んでからつぐみの方を向く。

「もし中野先生が付き添ってもいいって言うなら、今回は特別に許しましょう」
「いいの⁈ 中野先生、俺も入っていいですか?」
「えっと……山村先生がそれでいいなら、私は別に構わないというか……」
「やった! じゃあ決まり! すぐに行こう!」
「えっ、あっ、うん……」

 翼久の勢いに押され、よくわからないまま一階の閲覧室を出ると、二階にある書庫の入口に向かう。

 普段は書庫に向かう階段でさえ、生徒は立ち入り禁止だった。そこに入れるとあって、翼久はツグミより先にウキウキした様子で階段を登っていく。

 そしてドアの前に立つと、つぐみが鍵を開けるのを今か今かと待っていた。

 金属音が響き、重たい扉を開けて、暗闇の中の壁を手で触りながら電気のスイッチを探す。カチッという小さな音と共に、書庫の中が明るく照らされた。

「うわぁ、すごい……」

 目の前には螺旋状の階段があり、それを降りると広い部屋を埋め尽くすように置かれた本棚に、ぎっしりと本が並べられている。

 何度か足を踏み入れているつぐみと違い、初めてここにきた翼久は感嘆の声をあげた。それから嬉しそうに螺旋階段を降りていくと、本棚の中へと消えていった。
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