この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 ゴクリ、と自分の唾を飲み込む音がいやに大きく響いた。
 ネコがさらに牙を剥き出しにして笑う。金色の目は、爛々と輝いていた。

『人間の心理に干渉し、戦争を引き起こす。世界は負の感情に溢れ、我らはさらに数を増やし──世界が滅べば、ここでようやく新天地を求めて旅立つ』
「そ、そんな……」
『この世界は、いったいどれほど保つのか……楽しみじゃなぁ、珠子ぉ?』
「ひっ……」

 私は、ぞっとした。
 ネコが冗談を言っているわけではないと、本能的に確信してしまったからだ。
 きっと、ネコの細胞の一部が私の中に溶け込んでしまっているせいだろう。
 ネコは真っ青になった私を面白そうに眺めると、ベッドから木造りの机へと飛び移る。
 そうして、空気を入れ替えようとわずかに開いていた窓の隙間をするりと抜けて、外へ出てしまった。

「ちょっ、ちょっと! どこへ……」
『夜食を馳走になってくる。お前の辛気臭い顔は腹の足しにもならんからな。心配せんでも、今すぐこの世界が滅びたりはせんわ』
「そ、そう……なの……?」
『では、母はもう行くぞ。ちゃんと戸締りしてから寝ろよ』

 そう言い残し、ネコの白い体が闇に溶ける。
 私はただ呆然とそれを見送ることしかできなかった。
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