この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「タマが傷つくのは、もう見たくない。体も、心も……」

 元敵国の王子を祖国に送り届けるなんていう重要な任務の最中にありながら、一人きりとなったその口から出るのは、タマ、タマ、と彼女の名前ばかりだった。
 これには、さしものネコも毒気を抜かれてしまう。

『まったく……お前、我の娘が好きすぎじゃぞ……』

 ネコは、後退るようにしてミケランゼロの手から抜け出した。
 そして、彼の腹の上におすわりをすると、なーお、と鳴く。

『うだうだ言っとらんで、もう寝ろ。今夜は特別に我が側にいてやるわい』
「……もしかして、慰めてくれているのか?」
『お前が潰れたら困るんじゃよ。我らはベルンハルトを足掛かりにこの世界を席巻する算段じゃからな。お前には元気いっぱい珠子にとち狂っておいてもらわねばならん!』
「はは……何を言っているのか、全然わからんな」

 にゃーお、なーん、うにゃー、と澄ました顔をしておしゃべりを続けるネコに、ミケランゼロもここでようやく笑顔になった。
 ネコの背中の毛並みをゆったりと撫でながら、彼はひどく眠そうな声で続ける。
 
「お前がここにいて、タマは寂しがっていないだろうか……」
『心配あるまい。きょうだいが一匹、側に残っとるからな』

 ネコは一つ大きな欠伸をすると、撫でてもらったお返しみたいに前足を揃えてミケランゼロの胸をふみふみし始める。
 ほどなく、静かな寝息が聞こえてきた。
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