この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「殿下も、おタマも、ネコも、無事です。わたくし達は、わたくし達のなすべきことをいたしましょう」
『ええ、ええ、その通りですわ。こんなところで立ち止まっているわけには参りません。わたくしの──我らネコの尊さをこの世界に知らしめるため、前進あるのみですわ』

 殊更美しい一人と一匹の、そっくりな色合いの髪と毛並みが、崖の下から吹き上げた風で大きく舞い上がる。
 異様に神々しく、かつ何やら強キャラ感が迸っている彼女達を見上げて、メルはうっとりとした表情になった。

「なんだか、ロメリア様がお二人いらっしゃるみたい……心強いです」
「ロメリアが二人ぃ!? ナニソレ! こわ……っ!!」

 対照的に、准将はムキムキの体を縮こめて身震いする。
 それでも、さきほどまで絶望と悲しみに支配されていた彼の中には、確かな希望が生まれていた。

「そう、そうだね……私達にはなすべきことがある、か……」

 准将はそう呟き、今一度崖の下を覗き込む。
 そうして、遠い地面の上にミケランゼロ達の姿がないこと確認すると、ようやく立ち上がった。
 気持ちを切り替えるみたいに、パンパンと自分の両の頬を叩いてから、よしと頷く。

「殿下のご無事を信じる。我々は早急に本隊と合流し、父上の──大将閣下の指示を仰ごう」

 それを聞いたメルは神妙な顔をし、両手を揃えて差し出した。
 
「ロメリア様、准将閣下……お縄をちょうだいいたします」

 今度は、准将とロメリアが顔を見合わせる。
 よく訓練されている兄は、妹に無言のまま顎をしゃくられただけで、正しく彼女の意思を汲んだ。

「メルはロメリアの部下だからね。私は君を裁く立場にないよ」

 そう言って、准将はメルの横を通り過ぎると愛馬に跨り、ミケランゼロの馬の手綱を取る。
 ロメリアは、ソマリを肩に乗せたままメルの正面に立つと、毅然と言い放った。

「お前の沙汰は、殿下にご相談してから決めます。それまではこれまで通り、わたくしの手なり足となり働きなさい」
「……仰せのままに」



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