この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜

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 ──やめて!

 そう叫んだ声は、聞き慣れた私のそれではなく、まだ幼い子供の声だった。
 私を庇うように抱き締めるのは、頭二つ分ほど背の高い見知らぬ少年だ。
 アッシュグレーの髪と青い瞳はベルンハルトの国王様を彷彿とさせ、顔立ちにはミケの面影がある。

 ──兄上っ!

 子供が悲痛な声でそう叫び、その瞬間、私は合点がいった。

(私は、ミケだ──お兄さんが殺された時のミケになってるんだ……)

 目の前の見知らぬ少年は、若くして亡くなったベルンハルト王国の第一王子レオナルド。
 ミケとは五つ年が離れており、国王様の話ではその忠臣と思われていた人物に殺されたという。
 ミケは、この兄を助けられなかったことを悔い、彼の分まで祖国に尽くそうとするあまり、一人で多くを背負い込みすぎるきらいがあった。
 しかし、どういうわけかミケの視点で事件を追体験させられている私は、この時気づいてしまう。
 レオナルド王子はただ殺されたのではなく──ミケを庇って刺されたのだということに。

 ──兄上……兄上! あにうえあにうえあにうええええっ……!!

 自分の代わりに凶刃を受けて崩れ落ちた兄。
 血に濡れたその体に縋り付き、幼いミケが泣き叫ぶ。
 私の意識はいつのまにかミケの体から離れていたが、ただ無力な傍観者だ。
 血が溢れ出すレオナルド王子の傷を手で塞いでやることも、泣きじゃくる小さなミケを抱き締めてあげることもできない。

(ミケ……!)

 兄を失う悲しみや苦しみ、犯人に対する怒りや憎しみ──ミケの小さな体からは凄まじいばかりに負の感情が、黒い綿毛の姿になって溢れ出した。
 それが周囲を覆い尽くそうとするのに慌てた私は、無我夢中で黒い綿毛を掻き分ける。
 その最中のことである。

(誰……? もう一人、誰かいる……)

 黒い綿毛を掻き分けてできた隙間の向こうに、私は人影を見つけた。
 幼いミケでも絶命したレオナルド王子でもない、血に濡れたナイフを握った若い男である。
 右目の下に泣き黒子のある彼こそが──

(レオナルド王子を──ミケのお兄さんを殺した、犯人!?)

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