この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 私がこの世界に来て半年──戦争が終結してからも、ようやく半年。
 ベルンハルト王国は戦争にこそ勝利したものの、多くの犠牲者と巨額の戦時国債の発行により、軍事的にも経済的にもいまだ逼迫している。

(敵だったラーガスト王国は、敗戦にともなって王政が崩壊したんだっけ。今は確か無政府状態で、とてもじゃないけど賠償金なんて搾り取れそうにないって話だよね……)

 そんな中で、ミケことミケランゼロ王子を筆頭とするベルンハルト王国軍は、ひたすら戦後処理に追われている。
 特に、戦勝祝いに父王から正式に元帥の位を譲られたミケは、若くして重責を担い、体力とメンタルをすり減らしまくってきた。
 私がこうして、お茶の用意を携えて軍の会議室を訪れる目的は、彼に適度に休憩を取らせることと、もう一つ……

「私は超絶元気ですけど……ミケは疲れまくってますね? また何か、大変なことがありましたか?」
「……むしろ、大変なことしかない」

 私の後頭部に顔を埋めたまま、ミケは将官達には聞こえない声で弱音を吐く。
 元の世界へ戻る目処も立たない私は彼の庇護下に置かれ、現在はネコ達のモフモフふわふわボディを利用して、人々の心を癒す仕事に従事していた。
 もちろん、ミケ自身もその対象だ。
 私は自分を囲い込んだミケの腕を、宥めるみたいに片手でポンポンする。
 すると、黒い綿毛のようなものがいくつも彼の中から飛び出してきた。

(怒りや憎しみ、不安、嫉妬、悲しみ、苦しみ……)

 そんな、多かれ少なかれ誰しもが持つ負の感情が、黒い綿毛の正体だ。
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