この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「まあまあ、お二人ともご苦労様。朝早くから精が出るわねぇ」

 ふいに、おっとりとした女性の声が背後から掛かる。
 ミケが薪割りの手を止め、私は手についた木屑を払いつつ振り返った。
 声の主は、私の祖母くらいの年齢の女性だ。質素だが、清潔な身なりをしている。
 かまどで火を焚くのに薪を取りにきたらしい彼女は、薪置き場の隅でネコの背中を撫でながら言った。

「うふふ、何度見ても可愛らしい子ねぇ。お兄さんとお姉さんも、パンを焼くから食べていってちょうだいね」
「わあ、うれしい! ありがとうございます!」
「お心遣い感謝します」

 崖から落ち、川でずぶ濡れになった私達は、たまたま近くを通り掛かったこの老婦人の世話になった。
 老婦人は同い年の夫と二人暮らしをしており、私が目覚めて最初に見たのは彼らの家の天井だったのだ。
 ミケは素性を隠し、老夫婦には旅の途中でトラブルに巻き込まれたと説明したらしい。
 薪を割っているのは一宿一飯のお礼で、これが済んだら私達は早々に出立する予定である。
 なにしろここは、ミケが生まれ育ったのとは異なる世界、ではなく……

「私も主人もこのラーガストで長く生きているけれど、こんな子を見るのは初めてだわ」

 なおもネコの毛並みを撫でて老婦人が言う通り、ベルンハルト王国の隣に位置するラーガスト王国──まさに、私達が目指していた国の、のどかな農村だった。
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