この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「聞こえていた。そいつ、実はすさまじく可愛げのない声をしていたんだな。あと、口が悪い」
「そう! そうなんです! お口の悪いネコちゃんなんです……って、えーっ? いつの間に!?」
「川から上がった時には、気を失ったタマに縋り付いて、タマコタマコと叫んでいるのが聞こえていたな。ネコが言うには、タマはきょうだい最弱らしいじゃないか?」
「うっ……それは認めたくないです……」

 今回私達の体は、異世界へ行くことこそ叶わなかったものの、この世界の中では転移を経験した。
 半年前のように細胞レベルまでバラバラになるほどではないが、私もミケも、何かしら影響を受けずにはいられなかったようだ。

(レオナルド王子が殺された時のミケの記憶が私に共有されたのも、ミケにネコの言葉が聞こえるようになったのも、きっとそのせいだ)

 ただしミケは、私みたいに負の感情を黒い綿毛にして取り除いたり、それを視認したりはできないままらしい。
 これについて、ネコは引き続き秘密にしているようだ。
 暗黙の了解で、私もそれに倣うことにした。
 ともあれ、ミケがネコの言葉を解するようになったのは大きい。
 
「わあ、わあ! ミケ、いらっしゃいませ! ようこそこちらの世界へっ!!」
「随分と歓迎されているようだな」
「だって! ネコの暴言珍言へのツッコミ仲間ができたのかと思うと、嬉しくって!」
『ぬぬぬ……珠子め。母のありがたい説法に対してなんたる言い草じゃい』

 ネコははしゃぐ私をじろりと見上げたが、言葉にはいつものようなキレがない。
 それが何だか無性に寂しく思えた私は、薪を持っていない方の手でその毛並みをわしゃわしゃと撫でながら、殊更声を明るくして言った。

「覚悟しといてくださいね、ミケ! ネコって本当に、尊大で口うるさくって可愛げがないので!」
「いや、タマの方もなかなかの暴言を吐いていると思うんだが?」

 私の言い草に、ミケが苦笑いを浮かべる。
 そんな私達を半眼で見据え、ネコがボソボソと呟いた。

『ところで……お前達。ギクシャクしとったのは、もういいのか?』
「「あ……」」
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