この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「いやはや、おかげで一月は薪に困らん。ちょうど腰を痛めていたものだから、助かったよ。どうもありがとう」
「お礼を言うのは我々の方です。親切にしていただき、ありがとうございました」

 私はというと、ミケの背後で、ネコを挟んで老婦人と向かい合う。
 老婦人はさも名残惜しげにネコを撫で回した。

「ネコちゃん、もうお別れなんて寂しいわぁ。道中気をつけてね」
『うむ、ばーさんも達者で暮らせよ』

 ネコは相変わらずご機嫌斜めだが、にゃあん、とかわい子ぶった声で鳴いて愛想をした。
 わざわざ家の前まで出て見送ってくれた老夫婦の話では、日の高いうちに総督府まで辿り着けそうだ。
 ネコは、老婦人の夫と向き合うミケの背中を眺めて気怠げに言った。

『ふん……王子のくせに、随分と腰の低い物言いをするじゃないか?』
「素性を隠してるんだもん。当然でしょ」

 こぢんまりとした老夫婦の家の前には小麦畑が広がっているが、すでに刈り取りが終わった後のようだ。
 畑の先には森があり、背後に山が連なっている。総督府はその山の手前にあるそうだ。
 対して、ベルンハルト王国との国境は山を越えたずっと先にある。
 つまるところ、ネコの転移により、私達は総督府を通り過ぎてしまっていたのだ。
 そのためミケは、ベルンハルト王国軍と合流するよりも、総督府で彼らを待つ決断をした。
 予定通りであれば、ベルンハルト王国軍も本日到着するはずだ。

「あそこの森では、時折獣が出るらしいから気をつけてお行きよ」
「人が襲われたって話は、今のところは聞かないけれど、念のためね」

 すっかり乾いた元の衣服を身に着けた私達は、老婦人が焼いたパンも昼食用に持たせてもらう。
 老夫婦の孫が私と同い年で、現在は総督府で働いているらしく、せっかくなので差し入れの焼き菓子も預かった。
 そうして、いよいよ別れを告げようとした時だ。
 老夫婦は顔を見合わせ──夫の方が、意を決したように切り出した。
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