この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「お二人は──ベルンハルトから来たのだろう?」

 ミケが、さりげなく私を背に隠す。
 問うようでいて確信を滲ませた相手の言葉に、彼は警戒した。
 何しろ、ベルンハルト王国とラーガスト王国は半年前まで戦争をしていたのだ。
 ミケの大きな背中に隠された私も緊張を覚え、ネコをぎゅっと抱き締めた。
 言葉の真意を問うように、ミケは無言のまま老夫婦の次の言葉を待つ。
 彼はそもそも軍服姿だったし、これから向かう総督府を管理しているのもベルンハルト王国軍であるため、私達がベルンハルトから来たことに老夫婦が気づいていても不思議ではない。
 ただ、このタイミングで改まってそれを持ち出したのは何故なのか。
 そんな疑問を抱いていると……

「ラーガストが、すまなかったねぇ。国王はまったく、愚かなことをしたと思うよ」
「ベルンハルトの方々に、恨まれても仕方がないと思っているわ。でも──私達は、ベルンハルト軍に感謝をしているのよ」

 思ってもみない謝罪と感謝を受けて、ミケは目を丸くする。
 私は、腕に抱いたネコと顔を見合わせた。
 老夫婦が言うには、戦時中──特にラーガスト側の戦況が目に見えて悪くなった頃には、ここのような僻地は半ば見捨てられていたらしい。
 統率の崩れたラーガスト兵による略奪が横行し、老夫婦も先祖代々守ってきた土地を離れる決断を迫られていた。
 そんな中で進軍してきたベルンハルト王国軍が、ならず者と化したラーガスト兵を蹴散らし、敵国の村人を逆に守る形になったという。

「ラーガスト兵は逃げる際、我々の食料ばかりか、次に撒く小麦の種までごっそり持っていってしまってね」
「せっかく戦争が終わったとしても、もう飢えて死ぬしかないと絶望していたら……帰国するベルンハルト軍が、食料と種を分けて行ってくれたの」

 なんとか命を繋いだ老夫婦は、目の前にある畑でベルンハルト王国軍にもらった小麦を育て、収穫し──それを使って焼いたパンを、今回私達に振る舞ってくれたのだ。

「ラーガストがベルンハルトの良き隣人となれるまでは、きっと多くの時が必要だろう。その頃には、わしらはもう生きとらんかもしれんしなぁ」
「だから今回、こうしてあなた達と出会って、少しでもあの時の恩返しになっていると嬉しいわ」

 老夫婦の言葉に、ミケの大きな背中が一瞬震える。
 彼は一歩踏み出し、左右の手でそれぞれ老夫婦の手を握ると、噛み締めるように言った。

「ありがとうございます。私も今回、お二人に会えてよかった……どうか、今後も健やかにお過ごしください」
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