この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 騒然となる私達に、元祖チートは何やらもじもじしながら問いを重ねる。
 その前足には、ネコの座布団になりそうな大きな肉球が付いていた。

『ミットーさん……元気かにゃ? おれが噛んじゃったところ、治ったかにゃあ?』

 彼は、悪意を持ってミットー公爵を噛んだのではなかった。
 首輪を着けるのは嫌だと伝えようと甘噛みしたつもりが、力加減を誤って大惨事に繋がってしまったというのだ。
 これには、さしものネコさえドン引きした。

『いやいやいや! 公爵の傷跡を見たが、甘噛みであれってどういうことじゃい!』
『えへへ……おれ、ドジっ子なんだにゃあ』

 当時のミットー公爵が今のミケくらいの年齢だったと考えれば、それからすでに三十年余りが経っている。
 彼は、手に余ったチートを元いた場所に戻したらしい。
 確か、ラーガスト近くの森だと聞いていたが……

『あそこには、こわいお姉さんがいたにゃ。だからおれ、こっちに引っ越したんだにゃ』
「こわいお姉さんって……」
「もしかして、昨日タマ達が襲われていた、あのレーヴェのことではないか?」
『あいつ、メスじゃったんかい』

 元祖チートは優しい飼い主を傷つけてしまったことを悔やみ続け、このラーガスト王国の森に引っ越して以降も、人間に牙を立てることはなかったらしい。

「その一方で、農作物を荒らす害獣を捕食していたため、ここまで問題なく人間と共存してこれた、というわけか」
「獣は出るけど人が襲われた話は聞かないって、おじいさんとおばあさんもおっしゃってましたもんね」

 元祖チートは、戦時中もこの森に住んでおり、ベルンハルト王国軍の行軍にも出会している。その中には、ミットー公爵もいたはずだが……

『人間いっぱいは、こわい……おれ、ずっと隠れてたんだにゃ。でも、あんた達は、小さな同朋と一緒だったから……』
『なるほど、この我のキュートな姿を見て、話が通じそうじゃと思って出てきたわけかい。賢明じゃな』 ここで、ネコが私の腕から抜け出した。
 元祖チートに近づいていくと、鼻と鼻をくっつけ合って互いにクンクンし始める。
 これだけ体の大きさに差があっても、鼻キスで挨拶するところは何とも猫らしい。
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