この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
『おれ、人間来ると、ミットーさんいないかにゃーって、いつも見てたにゃ』
『ここは、そんなに頻繁に人間が通るんかい』
『昨日も、人間いっぱい通ったにゃ。夜にこそこそ通ったにゃ』
「──夜に、こそこそ?」

 ネコと元祖チートの会話を耳にしたとたん、一瞬にしてミケの表情が変わった。
 今の今までお腹を抱えていたのが嘘のように、すっと立ち上がると、目の前にお座りした相手に問う。

「大勢の人間が、昨日の夜にこの辺りを通ったというのか……そいつらはどこへ向かった?」
『あっちにゃ』

 元祖チートの大きな前足が差したのは、森の向こうにある山の麓──今まさに私達が目指している、総督府のある方角だ。

「えっと、総督府でミケが会談する予定の、革命軍でしょうか?」
「いや、革命軍ならば、夜にこそこそ行動する必要はない」

 戦争終結後、もはや統率もままならなくなっていたラーガスト王国軍は実質解体された。
 王家の親衛隊の多くは国王や王太子達とともに処刑され、末端の兵士のうち、有志は革命軍に転身している。
 王侯貴族からなる議会も機能しておらず、現在のラーガスト側の代表は革命軍だ。

「我が軍が統べる総督府と協力関係にある彼らなら、昼間に堂々と移動するだろう」
『こそこそせねばならんとすると……それは、革命軍と敵対する連中じゃろうなぁ?』

 険しい顔をするミケを見上げ、後ろ足で首の後ろ──新たな毛玉ができ始めている辺りを掻きながら、ネコが口を挟む。
 ミケは、鋭い目で総督府の方角を睨んだ。

「前政権の残党の可能性があるな……嫌な予感がする」

 彼はしばし顎に片手を当てて何やら思案している様子だったが、やがて足下に落ちていた葉っぱを一枚拾い上げる。
 元祖チートがふみふみしていたそれは、楕円形で濃い緑色をしていた。
 タンニンが多く含まれているのか、爪で引っ掻かれた部分が変色し、まるで茶色いペンで線を引いたみたいになっている。
 それをじっと見つめていたミケは、いまだ首の後ろを掻いているネコと、そこにできた毛玉を気にする私を順に見る。
 それから、元祖チートに向かって問うた。

「つかぬことを聞くが──あの山の向こうは、お前の縄張りか?」
< 187 / 282 >

この作品をシェア

pagetop