この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「もう、やめろ。トライアンは貴様の手駒ではない」
「随分と、あれを庇い立てするではないか?」
「まだ子供だ。大人が守るのは当然だろう。それに、彼はこれからラーガストの復興の象徴として、人々の心の拠り所となるんだ。ここで貴様に潰されるわけにはいかない」
「ふん……王宮の片隅で息を殺して生きていたような子供が、神を気取って民の信仰を集めようとは、烏滸がましい」

 トラちゃんに対するマルカリヤンの言葉は、ひたすら刃のように鋭い。
 正妻の子が、妾の子を疎ましく思う気持ちはわからなくはない。
 だが子供は、親も環境も選んで生まれてこられるわけではない。
 大人であるマルカリヤンが、それを理解できないはずはないのだが……。
 トラちゃんはもとより、それを庇う人間も気に入らないらしい彼は、胡乱な目でミケを睨む。
 そしてふと、何かに気づいたような顔をした。

「そう……そうか、なるほどな。お前がトライアンの肩を持つ理由がわかったぞ」
「何を……」
「ミケランゼロ・ベルンハルトは、第二王子だ──お前も、兄が消えてくれたおかげで、次の玉座を約束されたんだったな」
「……っ」

 次期国王同士としてマルカリヤンがミケと面識があったように、彼はその兄とも対面したことがあった。
 今は亡きベルンハルト王国第一王子、レオナルド・ベルンハルトと。

「レオナルド殿は、物腰柔らかないいお人だった。二人で、自分達が王となる未来を語り合ったこともあったさ」

 故人との思い出を懐かしむようでいて、ミケを揺さぶろうとしているのは明白だった。
 ミケがそれに気づかないはずはないし、動揺して隙を見せるはずもない。
 ただし── 

「彼はなぜ、亡くなったのだったか──ああ、そうだ。殺されたのだったな。犯人は? 捕まっていない? おやおや……それでは、誰が何のためにレオナルド殿を殺めたのかもわからないままか?」

 ミケが傷つかないわけではない。
 彼は、兄が自分を庇って死んだと思っているし、兄の分まで身を粉にして祖国に尽くしている。
 それを知ってしまった私は……
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