この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「くそっ……!」

 ローテーブルが取り払われたソファとソファの間の床に、後ろ手に縛られたマルカリヤンが座らされていたからだ。
 元祖チートの超強力猫パンチを食らって気絶していた彼だが、半時間ほどして目を覚ました。
 その間に、ネコ達にこてんぱんにされた彼の部下達は連行され、現在別室にてベルンハルト王国軍の将官達が取り調べを行っている。
 一人この場に残されたかつてのラーガスト王太子は、屈辱的な状況に随分とショックを受けている様子だったが、やがて投げやりに呟いた。

「……殺せ」
「殺さん」

 即答したのはミケだ。
 私は彼らのやりとりを、ネコ達を撫でながらそっと窺っていた。
 床に座り込んだままのマルカリヤンを、腕組みをしたミケが威圧的に見下ろす。

「戦争は終わった。もうこれ以上、無益な血は流したくはない」
「ふん……綺麗事を」
「どうとでも言え。だが、お前の隠し財産とやらは、根こそぎ没収させてもらうぞ」
「……口を滑らせたことを、心底後悔している」

 マルカリヤンは、隠し財産のことをミケにチクった私を見つけて軽く睨む。
 しかし、モフモフ達に囲まれているのを見ると、毒気が抜かれたような顔になった。

『ぐふふ……あいつも結局、珠子には敵わんのじゃ。ネコの下僕が、ネコを害することなど不可能なようにな!』

 ネコが言うように、私を咎める言葉も吐かずに睨むのをやめたマルカリヤンは、はー……、と肺の中が空っぽになるくらい大きな息を吐いた。
 その身の内からぞわぞわと黒い綿毛が湧き出すのが見えて、私はそわそわしてしまう。

「あの人の負の感情も、取り払ってあげられないかな」
『なんじゃあ。お前、あいつに吸われたり撫でられたりするのを、さっきはあんなに嫌がっとったじゃろうに』
「うん、でも……もう、観念しきってるみたいだし……」
『ふん! 王子は、珠子とあの男が接触するのを許さんと思うがな!』
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