この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 革命軍との協議の末、マルカリヤンの身柄はベルンハルト王国に護送されることになった。
 皮肉にも、末弟であるトラちゃんと入れ替わりだ。
 しかし、マルカリヤンはもはやそれに対して何の感想も口にせず、代わりにぽつりと呟いた。 

「ベルンハルトに行くのは、初めてだな……レオナルド殿の墓に花を手向けたいのだが」
「……善処しよう」

 ミケの亡き兄レオナルドは、マルカリヤンと同い年だった。
 兄が生きていれば何かが違っただろうか──ミケはきっと、そんなことを考えたこともあっただろう。
 けれどもレオナルドは亡くなり、マルカリヤンと剣を交えることになったのはミケだった。
 ミケは、冷静になったマルカリヤンに再び問う。

「ラーガスト国王は、なぜ戦争をしようとした?」
「……さあな。父の考えなど、さっぱりわからん」

 マルカリヤンのなげやりな言い草に、ミケをはじめとするベルンハルト王国の人々が眉を顰めた。
 鼻面に皺を寄せたネコが、彼らの思いを代弁するように喚く。

『何じゃい何じゃい! 王太子ともあろうもんが、随分と無責任なことじゃわい!』
「そうだね。でも、国王を神格化していたって話だから、その言葉は絶対で……あのマルカリヤンって人も、わけもわからないまま戦争をさせられていたのかも……」

 マルカリヤンが鬱々とした様子で、もう一度大きなため息をついた。
 それから、ふと思い出したように言う。

「だが……私は、父があの男に唆されたのではないかと思っている」
「あの男? それは何者だ?」
「私よりいくつか年上に見えたが、素性は知らん。ただ、父が数年前から重用していてな──右目の下に泣き黒子のある男だ」
「右目の下に……泣き黒子……」

 ミケが、はっとした顔をした。
 彼の過去の記憶を共有していた私の心もざわりとする。
 ミケの兄レオナルドを殺した男の右目の下にもまた、泣き黒子があった。
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