店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「でも、ヒト族の国が現在も存続しているかどうかは定かではなく、そもそも純血種はもういない、と歴史の授業では習いましたが」
「確かに、ヒト族の国が他の種族との交流を断って久しい。それでなくても、純血種は殊更大事に仕舞われていて、他国の人間は姿を見ることすら叶わなかったという話だからな」

 混沌の時代、数多の種族の橋渡しを務めたヒト族だが、当然ながら一枚岩だったわけではなく、他種族の血が入るのを厭う保守派も存在した。
 ヒト族の血のおかげで種族間の交配が進む中、彼らは住処を隠し外界との交流を断つことで、純粋な血統を守ろうとしたらしい。
 そんな閉鎖的な環境で、ヒト族が好んだコーヒーがどう変化し、進化を遂げているのかに、フォルコ家当主の多くが強い興味を抱いていた。
 イヴの父も、そして今代の当主である兄オリバーも。
 
「イヴは、ヒト族についてどう思う?」

 ふいにウィリアムから投げかけられたそんな問いに、イヴは無意識に眉を顰めた。

「特に何も。全然、思い入れはないです」

 拗ねたような口調になってしまったのは、亡き父に続き、たった一人の兄の関心までヒト族に奪われてしまっている現状を、少なからず面白くないと感じているからだろう。
 そんな彼女の心の内を知るウィリアムは苦笑する。
 皮肉なことに、ヒト族の純血は黒髪で焦茶色の瞳をしており、現在の大陸の人間より全体的に小柄であったという──ちょうど、イヴのように。
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