店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「コーヒーにだって、私は父や兄ほど情熱を抱いているわけではありませんから」
「コーヒー店を一人で切り盛りしているというのにか?」
「だって、仕事ですもの。兄に店を任されてしまいましたし……私が店を開けないと、寂しく思ってくださるお客様もいらっしゃいますし」
「そうだな。私も、イヴが淹れてくれたコーヒーを飲めなくなると、仕事を頑張れないな」
ウィリアムがそう冗談めかして言うと、イヴはとたんに拗ねるのをやめた。
フォルコ家は、今から三百年ほど前──第十三代アンドルフ国王の時代に、その長男として生まれた一人の王子から始まった家だ。フォルコというのは、そもそも王子の名前らしい。
玉座を継ぐ立場にありながら、フォルコ王子はコーヒーの研究に没頭するばかりで政治にまったく興味を示さず、最終的には王位継承権を放棄してしまう。
その際、爵位も財産分与も辞退する代わりに、当時研究室としていた王宮の一角を私有地とすることを認めさせたのだという。
それが、現在『カフェ・フォルコ』がある、王宮一階大階段脇。
かの店にアンドルフ王家の権力が及ばないのは、あの場所がフォルコ家の領地であるからだった。
王宮の一部を私物化させるなどと普通では考えられないことだが、後に第十四代国王となった弟王子が、この変わり者の兄と、彼が淹れるコーヒーをこよなく愛していたためだと言い伝えられている。
イヴとウィリアムも、系譜上では非常に離れた場所にはいるものの、遠縁の関係にあった。
「コーヒー店を一人で切り盛りしているというのにか?」
「だって、仕事ですもの。兄に店を任されてしまいましたし……私が店を開けないと、寂しく思ってくださるお客様もいらっしゃいますし」
「そうだな。私も、イヴが淹れてくれたコーヒーを飲めなくなると、仕事を頑張れないな」
ウィリアムがそう冗談めかして言うと、イヴはとたんに拗ねるのをやめた。
フォルコ家は、今から三百年ほど前──第十三代アンドルフ国王の時代に、その長男として生まれた一人の王子から始まった家だ。フォルコというのは、そもそも王子の名前らしい。
玉座を継ぐ立場にありながら、フォルコ王子はコーヒーの研究に没頭するばかりで政治にまったく興味を示さず、最終的には王位継承権を放棄してしまう。
その際、爵位も財産分与も辞退する代わりに、当時研究室としていた王宮の一角を私有地とすることを認めさせたのだという。
それが、現在『カフェ・フォルコ』がある、王宮一階大階段脇。
かの店にアンドルフ王家の権力が及ばないのは、あの場所がフォルコ家の領地であるからだった。
王宮の一部を私物化させるなどと普通では考えられないことだが、後に第十四代国王となった弟王子が、この変わり者の兄と、彼が淹れるコーヒーをこよなく愛していたためだと言い伝えられている。
イヴとウィリアムも、系譜上では非常に離れた場所にはいるものの、遠縁の関係にあった。