店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「私の記憶に間違いはありません。オズさんは今月早番ですから、勤務時間は九時から十七時……つまり、もう今日の仕事は終わっていらっしゃいます」

 前置きが未然形ではないのは、イヴが己の記憶力に絶対の自信を持っているからだ。
 そして、彼女の記憶に間違いがないことは、王宮では周知の事実。
 ゆえに、小柄な少女を相手に、屈強な衛兵でもたじたじとなった。

「オズ・ウィンガーさん、伝言をお預かりしています」
「うっ……」

 もう一度、イヴはきっぱりと告げる。
 カウンターの向こうでニコニコ愛想よくしている彼女しか知らなかったオズは、さぞ戸惑ったことだろう。
 言葉を失う彼に、イヴは容赦無く本題に入ろうとする。ところが……

「ニコル・ハイドンさんから……」
「き、聞きたくないっ……!!」

 伝言の依頼主の名前を出したとたんだった。
 オズがそれを遮るように叫んだかと思うと、そのままだっと走り出してしまったのだ。
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