店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
これまで『カフェ・フォルコ』ではブラックコーヒーしか飲まなかったニコルが、この日初めて注文したのは、オズの〝いつもの〟だった。
ミルクと砂糖がたっぷりと入って甘い──彼女の好みとはかけ離れた一杯。
かつては二人で訪れていた昼休みに、一人ぽつんとしてそれを飲んでいた今日の彼女を思うと、イヴは胸がちくちくする。
同時に、亡くなった妻が好きだったカフェオレを、ゆっくり味わっていったマンチカン伯爵を思い出し、切ない気持ちになった。
「ニコル・ハイドンがどんな思いでそれを注文したのか……想像することは難しくないだろう」
「……」
ウィリアムが諭すように言う。
抵抗をやめたオズは、ぐっと唇を噛み締めて地面に視線を落とした。
自分がこの日淹れた二杯のカフェオレは、いったいどんな味がしたのだろう。
そう、イヴは思いを巡らせる。
「ニコルさんは、覚悟を決めていらっしゃいました。私に伝言を託したのは、逃げ場をなくしてご自分を鼓舞するためだったのでしょう」
「ニコル……」
「伝言があなたに届かなくても、もしもあなたがそれを聞き流したとしても……今夜、縁談を断るおつもりだと思います」
「お、俺は甲斐性なしだから……彼女の親が認めたような立派な相手には敵わないと思ったんだ……」
ミルクと砂糖がたっぷりと入って甘い──彼女の好みとはかけ離れた一杯。
かつては二人で訪れていた昼休みに、一人ぽつんとしてそれを飲んでいた今日の彼女を思うと、イヴは胸がちくちくする。
同時に、亡くなった妻が好きだったカフェオレを、ゆっくり味わっていったマンチカン伯爵を思い出し、切ない気持ちになった。
「ニコル・ハイドンがどんな思いでそれを注文したのか……想像することは難しくないだろう」
「……」
ウィリアムが諭すように言う。
抵抗をやめたオズは、ぐっと唇を噛み締めて地面に視線を落とした。
自分がこの日淹れた二杯のカフェオレは、いったいどんな味がしたのだろう。
そう、イヴは思いを巡らせる。
「ニコルさんは、覚悟を決めていらっしゃいました。私に伝言を託したのは、逃げ場をなくしてご自分を鼓舞するためだったのでしょう」
「ニコル……」
「伝言があなたに届かなくても、もしもあなたがそれを聞き流したとしても……今夜、縁談を断るおつもりだと思います」
「お、俺は甲斐性なしだから……彼女の親が認めたような立派な相手には敵わないと思ったんだ……」