店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 保守的な家庭で生まれ育ったニコルが親に逆らうというのは、並大抵の覚悟ではできないだろう。勘当される、というのも大袈裟ではないかもしれない。
 それなのに、この期に及んで煮え切らないオズの態度に、ウィリアムは呆れた顔をする。
 イヴは、いっそ残酷なほど淡々とした調子で続けた。
 
「ではこのまま、オズ・ウィンガーは甲斐性なし、と私に記憶されてもいいのですか?」
「えっ……」

 情けない顔をする相手に、イヴは畳みかける。

「ニコルさんも、十七時で仕事を終えています。帰り支度をして、そろそろ王宮を出るのではないでしょうか。──彼女に一人で縁談を断りに行かせて、本当にいいのですか?」
「──よ、よくないっ!!」

 ばっと顔を上げて、オズが叫んだ。
 やっと光が戻ったその目を見下ろし、イヴは大真面目な顔をして頷く。

「私も、よくないです。ニコルさんに最後にお出ししたのが好みからかけ離れた一杯だなんて──カフェ・フォルコの沽券に関わります」
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