店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
とたん、ガサガサと茂みを掻き分ける音がして、ひょっこりと見知った顔が飛び出してくる。
褐色の毛に覆われ、人間のそれと同じくらいの大きさをしたネズミの顔だ。
ウィリアムのように気配に敏感ではないイヴは目を丸くする。
茂みに誰かが潜んでいるだなんて、今の今まで知りもしなかったのだ。
「全然気づきませんでした……いつからいらっしゃったんですか?」
「私達がここに腰を下ろしたその瞬間から、だな。──ラテ、出てくるのか立ち去るのか、いつまで経ってもはっきりしないのはさすがに鬱陶しいぞ」
ウィリアムの苦言に、ラテと呼ばれたネズミはつぶらな黒い瞳をぱちくりさせてから口を開く。
出てきたのは、ひどく甲高い声だった。
「申し訳ございません、王子殿下。お二人の邪魔をするのがどうにも忍びなく」
「なら、とっとと立ち去ればよかろうが」
「いえ、殿下がいよいよチューくらいするのではないかと期待し……」
「──黙れ」
ラテの話をウィリアムが鋭く遮る。
イヴは、バスケットからもう一つカップを取り出しながら首を傾げた。
「ラテさん? どうして、お話の途中に鳴き声を交ぜたんですか?」
「いえ、ですから、殿下がイヴ様にチューを……」
「──いいから黙れ」
ネズミがチューと鳴くのは万国共通である。
ラテはネズミ族の獣人で、王城の庭師をしていた。
ネコ族の獣人であるマンチカン伯爵と同様に、五百年余りを生きるたいへん希少な存在だが、大らかな彼とはちがってひどくおどおどしていて落ち着かない。
今も、顔だけ茂みから出した状態で、辺りをきょろきょろ見回しながら声を潜めてイヴに問うた。
褐色の毛に覆われ、人間のそれと同じくらいの大きさをしたネズミの顔だ。
ウィリアムのように気配に敏感ではないイヴは目を丸くする。
茂みに誰かが潜んでいるだなんて、今の今まで知りもしなかったのだ。
「全然気づきませんでした……いつからいらっしゃったんですか?」
「私達がここに腰を下ろしたその瞬間から、だな。──ラテ、出てくるのか立ち去るのか、いつまで経ってもはっきりしないのはさすがに鬱陶しいぞ」
ウィリアムの苦言に、ラテと呼ばれたネズミはつぶらな黒い瞳をぱちくりさせてから口を開く。
出てきたのは、ひどく甲高い声だった。
「申し訳ございません、王子殿下。お二人の邪魔をするのがどうにも忍びなく」
「なら、とっとと立ち去ればよかろうが」
「いえ、殿下がいよいよチューくらいするのではないかと期待し……」
「──黙れ」
ラテの話をウィリアムが鋭く遮る。
イヴは、バスケットからもう一つカップを取り出しながら首を傾げた。
「ラテさん? どうして、お話の途中に鳴き声を交ぜたんですか?」
「いえ、ですから、殿下がイヴ様にチューを……」
「──いいから黙れ」
ネズミがチューと鳴くのは万国共通である。
ラテはネズミ族の獣人で、王城の庭師をしていた。
ネコ族の獣人であるマンチカン伯爵と同様に、五百年余りを生きるたいへん希少な存在だが、大らかな彼とはちがってひどくおどおどしていて落ち着かない。
今も、顔だけ茂みから出した状態で、辺りをきょろきょろ見回しながら声を潜めてイヴに問うた。