店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「兄さんも、ラテさんのやらかしを聞いたら絶対撤回しませんよね?」
「しないな。あいつはコーヒー過激派だから……」

 今代も王宮出禁続行間違いなしなラテは、イヴと並んで切り株の端にちょこんと腰を下ろした。
 イヴの陰に隠れて、ウィリアムからは彼が見えなくなる。
 イヴはウィリアムが挽いた豆をドリッパーに入れて、焚き火で沸かしたポットのお湯を注いだ。
 とたん、ふわりと立ち上ったコーヒーの香りに、ラテが黒々とした鼻をヒクヒクさせる。
 彼は感慨深げなため息を吐くと、コーヒーを淹れるイヴを見上げて言った。

「イヴ様を見ておりますと、あの頃のことがよくよく思い出されます。フォルコ殿下のお側には、あなた様とよく似た黒髪とコーヒー色の瞳の、ヒト族の女性がおられたのですよ」
「ヒト族の、ですか……?」
「ええ、しかも当時すでに希少になっていた純血のヒト族でございます。フォルコ殿下がコーヒーに魅せられたのは、その方の影響でした」
「アンドルフ王国の王宮にヒト族の純血がいたと言うのか? それは、私も初耳だな……」

 突然もたらされた三百年前の新情報に、イヴとウィリアムはまた顔を見合わせる。

「わたくしめがやらかした頃には……もう、この国にはいらっしゃいませんでしたがね」
「どこへ行ったんだ?」

 イヴの向こうからウィリアムが覗き込んで問うと、ラテは身を縮こめてぽつりと答えた。

「……ヒト族の国に、お帰りになられました」
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