店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 そんなやりとりの間にも、ドリッパーの中ではお湯を注いだ粉がモコモコと膨れ上がっていた。
 これは焙煎によって発生したガス──二酸化炭素の作用によるもので、やはり二、三日寝かせたものに比べると抽出が甘い。
 それを証拠に、三つのカップに移したコーヒーは、普段店で出しているものより幾分色が薄かった。

「何やら、懐かしゅうございますなぁ……あの後、王宮に出入り禁止になった私に、フォルコ殿下もこっそりこうして焙煎したてのコーヒーを淹れてくださったのですよ」

 一口飲んだラテがそうしみじみと呟くのを聞いて、イヴもまた感慨深い思いを抱く。
 コーヒーの豆の種類や製法は時代が進むにつれて多様化したものの、基本的な味わい方はヒト族が伝えた時代から変わっていないのだ。
 ミルクと砂糖を足して、カップに口をつける。
 見た目の通りやはり少し薄かったが、イヴもウィリアムもラテも、何も言わずにそれを味わった。
 コーヒーの香りが漂う中、広場に郷愁を含んだ沈黙が落ちた──その時。


「うわーん、イヴぅうう! 聞いてよー!!」


 泣き真似をしながら登場したのは、思いもよらぬ人物だった。
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