店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「せっかく湖まで行ったのに、風が強くてボートが出せなかったのぉ! つまんないから、もう帰ってきちゃ……」

 王城からずっと離れた湖に行っているはずのマンチカン伯爵だ。
 その青い瞳が、イヴの隣でカップを傾けるラテを捕らえたとたんである。
 
「んにゃー、この性悪ネズミめー! ここで会ったが三百年目ええ!!」
「きゃー! ネコー!!」

 ネコは両目を釣り上げ牙を剥き、全身の毛を逆立てて威嚇する。
 ネズミは中身が残ったカップを放り投げ、その場でびょんと飛び上がった。

「ちゅー! イヴ様! おたすけー!!」
「ええっ……あの、ちょっと……」
「ああっ、このぉ! イヴを盾に取るとは、卑怯にゃりーっ!!」
「お、お二人とも落ち着いて……」

 イヴを挟んでチューチュー、ニャンニャン、それはもう大騒ぎである。
 しまいには、自分の周りでぐるぐると追いかけっこしだした二人に、イヴは目を回しそうになった。
 空になったカップを必死に両手で握りしめていたが……
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