店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 一際凛とした声がその場に響いた。
 大会議室がたちまち静まり返る。
 声の主は王妃の隣の席にいた、イヴと同じ年頃の美しい少女である。
 椅子から立ち上がった彼女は、凍るような眼差しで一同を見回したかと思ったら、最後にじっとイヴを見据えた。
 アンドルフ王国の重鎮達が、突然やってきたイヴをちやほやするのが気に入らないのかと思われたが……

「イヴは、この私に会いにきたに決まっていますでしょう? お呼びじゃない皆様は、すっ込んでいてくださいませ」

 逆である。
 少女はしずしずと扉の側まで歩いていくと、張り付いていたマンチカン伯爵をベリッと引き剥がし、自分よりいくらか背の低いイヴを抱き締めた。
 その瞳は金色で、髪は銀色──つまり、ウィリアムとおそろいである。
 そればかりか、彼女の頭の上には……

「ロメリア様、今日もとってもかわいいです」

 銀色のフサフサの毛に覆われたオオカミの耳が立っており、イヴは両手を伸ばして断りもなくそれをモフモフした。
 ロメリア・アンドルフ──アンドルフ王国の王女で、ウィリアムの妹である。
 マンチカン伯爵家のジュニアと同じく、獣の耳と尻尾を持って生まれた先祖返りだ。
 十ヶ月ほど先に生まれた彼女が卒乳したばかりだったこともあり、イヴは王妃から乳をもらうことができたのだ。
 兄にとってのウィリアムのように、イヴにとってはこの王女ロメリアが唯一無二の幼馴染みだった。

「ロメリアとイヴは相変わらず仲良しさんですわねぇ」
「うんうん。うちの娘達は世界一かわいいなぁ」

 国王夫妻がそう言って微笑み合う横で、ウィリアムは人知れず安堵のため息を吐く。
 ロメリアの耳をひたすらモフモフしているイヴに、切羽詰まった様子は見受けられないため、緊急を要することでここを訪ねてきたのではないと判断したのだ。
 それにしても、ネコ獣人と少女が仲睦まじいのも微笑ましいが、可愛い少女二人がキャッキャしている光景でしか得られない栄養がある。
 またもやほのぼのとした空気に包まれる大会議室だったが、そんな中で食い気味なロメリアの声が響いた。
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