店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 新たなコーヒー豆を求めて大陸中を旅するオリバーは、初対面の相手との交渉を円滑にするため、外では実に感じのいい好青年を演じているらしい。
 しかし元来の彼は愛想がある方ではない。
 そのため、祖国に戻ったとたん、一切取り繕うのをやめてしまうのだ。
 
「それで、イヴ? どうだった? 新しい豆の評判は」
「上々でしたよ。マンチカン伯爵閣下が、ご家族にも飲ませたいから焙煎したものを少し譲ってほしいとおっしゃっていました」
「なかなか個性的でうまかったな。深煎りでも、風味がしっかりと残っていた」

 イヴとウィリアムの言葉に、オリバーがなるほどと頷く。

「産地が火山の近くでね。肥沃な火山性土壌で栽培されているんだ。高原地帯だから、日中は暑くて夜は涼しい。その寒暖差を活かすことで、旨味が凝縮された豆ができあがるらしいよ」

 彼は続いて、立ち飲み用のテーブルで試飲している侍女達にも声をかけた。

「そこのお姉さん達。コーヒーの味はどう?」
「酸味が控えめでコクがあって、おいしいと思うわよ。淹れた男が気に入らないけど」
「シナモンやハーブみたいな風味がして、かなり好き。淹れた男はいけすかないけど」

 自分に対する彼女達の辛口評価は気にも留めず、今代のフォルコ家当主はここで初めて満足そうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、期間限定で品書きに加えてみるかな」






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