店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 十七時を回り、『カフェ・フォルコ』がある王宮一階大階段付近は殊更人通りが多くなった。
 ジュニアの凹んだ姿に、人々はなんだなんだと足を止めては顔を見合わせている。
 そんな観衆をじろりと鋭く見回したルーシアは、とにかく、と続けた。

「例の場所で待っているわ。あの人にも、そう伝えてちょうだい」
「あっ、ルーシアさん。金貨……」
「あげるって言ってるでしょう。しつこいわね。それで、せいぜいおいしいお菓子でも買えばいいんだわ」
「……」

 口を噤んだイヴにフンと鼻を鳴らすと、ルーシアは踵を返す。
 そうして、ざわざわする周囲を完全に無視し、カツカツとブーツの踵を響かせて去っていった。
 そのすらりとした後ろ姿と、金貨を握りしめたまま無言で立ち尽くすイヴを見比べ、ジュニアはおろおろする。
 やがて、コーヒー色の瞳を大きく瞬かせてから、イヴが口を開いた。

「ジュニアさん……この後、マンチカン伯爵閣下をお迎えにいかれるのですよね?」
「えっ? う、うん……」
「ご面倒をおかけして申し訳ありませんが、一緒にいるウィリアム様と兄に伝言をお願いできませんでしょうか?」
「それは……別に、かまわないですけど……」

 何と伝えようかと問う彼に、イヴは手の中の金貨を見下ろして続けた。

「戻りが遅くなるかもしれませんが、どうか心配なさらないでください、と」
「えっ? ええっと……どちらへ行かれるんですか?」

 時刻は、すでに十七時を回っている。
 イヴはかまどの火を落とすと、カウンター横の壁にかかっていた札を〝営業中〟から〝営業終了〟に裏返した。
 そうして、エプロンドレスとヘッドドレスを外しながら、ジュニアの質問に答える。

「ちょっと、裏山へ行って参ります」
「う、裏山……?」
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