店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「あのおっさん、イヴがうちの名を背負って店に立つことが気に入らなかったんだったけ?」
「自らフォルコ家と縁を切っておきながら干渉しようなどと、烏滸がましいにもほどがある」

 オリバーは冷笑を浮かべ、ウィリアムは苦々しい顔をして言う。
 一年前のあの日──メイソン公爵はカウンターを乗り越えて『カフェ・フォルコ』の店内に侵入し、棚に並べられていたコーヒー豆のビンをことごとく割った。
 つい最近、ウィリアムはイヴとともに同じような話を聞いたが、うっかり者のネズミ獣人とは比べ物にならないくらい、こちらはたちが悪い。
 公爵とはいえそのような暴挙が許されるはずもなく、即刻衛兵に取り押さえられて審議にかけられた。

「けど、そこで決定したうちへの補償にも謝罪にも頑として応じなかったんだよね」
「見かねた父──陛下が直々に申し渡した、フォルコ家への接近禁止の命には、さすがに従わざるをえなかったようだがな」
「特にイヴに関しては、万が一あの子に手の届く距離まで近づいたら、理由の如何を問わず爵位を後継者に移行させるって宣言なさったんだっけ?」
「ああ、幸い長子はまともな男だ。さっさと彼に爵位を譲っていれば、こんなことにはならなかっただろうに……」

 代々議席を持つメイソン公爵は、定例会議に出席する義務がある。
 ところが、正面玄関ではなく裏口からしか王宮に入れてもらえないことに腹を立て、結局それから一度も議会に出席していなかった。
 公爵という地位と王家の分家ということで、幾分寛大な処置がとられてきたが……
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