店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「義務を放棄し続ける者に、これ以上の情けは無用だね。メイソン公爵家の議席は、永久に剥奪されることになった」

 マンチカン伯爵が、瞳孔を針のように細めてそう言い放つ。
 彼も、メイソン公爵の行いを腹に据えかねていたのだろう。
 
「母上の実家だから、オリバーは複雑かもしれないけども……」
「関係ないよ。母さんは、そもそもあの家のことは好きじゃなかった。もちろん、俺もね」

 オリバーの答えにうんうんと頷いたマンチカン伯爵は、今度はウィリアムに向かって言った。
  
「議会決定の言い渡しは明日、だっけ? しばらくメイソン家は荒れるだろうねぇ。逆恨みで危害を加えられないよう、イヴに護衛を付けた方がいいんじゃにゃいか?」
「すでに、信頼のおける衛兵を手配している。私もできる限り様子を見に行くようにするよ。オリバーも、しばらくは王宮にいるんだろう?」
「そうだね。メイソンのおっさんがどこまで墜ちるのかは、見届けてやろうかな」

 やがてチリチリと音を立て始めたコーヒー豆を、オリバーが火から上げる。
 それを網の上に広げて冷ましつつ、それにしても、と続けた。

「一年前、万が一イヴが怪我でもさせられていたら、あいつの屋敷に火をつけて盛大にコーヒー豆の焙煎をしてやったんだけどね」
「そんなコーヒーは飲みたくないな。そういえばあの時、直前にイヴを店から連れ出した者がいたんだったな。確か、彼女は……」

 ウィリアムがその人物の名を口にしようとした時だった。
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