すずらんを添えて 幸せを
ふと目を覚ますと、私の身体は尊に後ろから包まれたままだった。

どうやら私は、泣き疲れていつの間にか眠ってしまったらしい。

そっと身体を離すと、尊を振り返る。

尊は壁にもたれて眠っていた。

しっかりと私の身体に回されている尊の両手をそっと解き、静かに立ち上がる。

スマートフォンを確認すると、時刻は17時過ぎだった。

(お父さん達、心配してるだろうな)

なんとかして連絡したいが、相変わらず圏外のままだ。

(とにかく一刻も早くここを出なければ。でも、どうやって…?)

方法があるならとっくに試している。
思いつかないから、私も尊も仕方なくここに留まっているのだ。

ふう…、と落胆のため息をついた時、正面の壁に小さく彫られている絵が再び目についた。

立ち上がり、近くでもう一度じっくりと眺めてみる。

(もしかして、母親とその子ども達?)

そう思った瞬間、ハッとする。

(お母さんと二人の娘…。私とお姉ちゃん…。いつか一人を返して…)

次々と頭の中に浮かぶ言葉に、身体がガタガタと震え出す。

(そうだ。きっとこの絵の人が、昔私のお母さんに語りかけた人。そして今もお姉ちゃんを奪おうと…)

そうはさせない。
私が必ずお姉ちゃんを守る。

ぐっと拳を握ると、私は絵の前に立ち大きく深呼吸する。

そして両手を絵にかざし、心の中で語りかけた。

(私の声が聞こえますか?私は昔、ここであなたに助けられました。あなたが、いつか返してと望んでいた娘です)

しばらくじっとしていると、やがて絵がぼんやりと明るくなった。

その明かりは瞬く間に輝きを増し、パーッと光に包まれた私は思わず眩しさに目をつぶる。

光に目が慣れ、恐る恐る開いてみると、そこには髪の長い着物姿の女の人が微笑みながら立っていた。
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